所得拡大税制(改正前)

最近ではほとんど目玉といえるような

減税策がない中で唯一といっていいような特例です。



内容はかなり難しくて調べながら判定を行わないと危険極まりないのですが。


1.趣旨

 青色申告者が従業員の給与を増加させた場合には、税額控除を認めるというものです。

2.期間

 平成30年3月31日までに開始する事業年度。その後は、今回の改正でもう少し変化したものになります(後日触れる予定)。なので、今回の3月決算で検討するところも多いでしょう。

3.目的

 所得を拡大して、景気をよくするためです。アベノミクスの3本の矢の3本目として少しだけ注目されました。基準年度はあくまで「平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度開始の日の前日を含む事業年度」であり、安倍政権(平成24年12月成立)になってから給与が一定割合以上増えていない法人は使えません。ただ、ここの要件にひっかかる法人は見たことなかったですが。

4.要件

 1)前述の基準年度より一定割合給与総額増加(大法人5%、中小3%)

 2)前期より給与総額増加

 3)平均給与支給額が一定割合前期より増加(大法人2%、中小0%=超えていればOK)

 ただし、平均給与支給額の対象となる人のカウントがとてもややこしくてここでは省略しますが、継続雇用者に対する給与を用いて判定しないといけないです。非常に細かいので税理士と連携を密にとって適用を判断してください。

5.控除額

1)中小法人

 基準年度からの増加額×10%(大法人並みに平均給与の割合が増えていれば、前年比増加額×12%を加算)

2)大法人

 基準年度からの増加額×10%+前年比増加額×2%

ただし、いずれも前年比増加は基準年度からの増加額を限度とする。つまり、控除額を決める上で大事なのはアベノミクス元年からどれだけ給与が増えているかということです。

6.控除限度額

 1)中小法人

  法人税額×20%

 2)大法人

  法人税額×10%

7.その他

 ・地方創生の雇用促進税制との併用もある。

 ・大法人は設立年度は使えなくなった。

 ・外形標準課税にもこの制度があるので、合わせて確認しなければならない。

8.実務上の留意点

 この特例を適用するために、決算月において給与を臨時に(つまり決算賞与を)支給することも考えられる。一回給与を上げてしまうと、従業員は次も期待してしまうので、支給の仕方も考えなくてはならないが、上記の判定(特に平均給与がひっかかるケースが多い)がぎりぎりアウトになりそうなときに少しボーナスを出せば税額控除をかなり採れるというのであれば積極的になるべきと思われる。

 その場合に未払いで賞与を考える場合については、その支給額は確定したものでないといけないことになる。よく給与規定等で、その支給日に在籍していたものに対して支払うものとする、と書かれているものを目にする。4月30日に支給している場合には実際に全員が在籍していたとしても、3月末時点では全員に支給するか(全員が4月末までこの企業に生き残るかどうか)は確定していないのであり、確定債務とはならずに未払賞与が全額税務上否認されて、場合によっては所得拡大税制も適用できないということになるであろう。なので、可能であれば、3月中に支給まで済ませてしまうというのがよいだろう。

 また、この規定は租税特別措置法上の特例であり、後から追加で適用を受けることができないため、ぎりぎり赤字で税金が出ない場合にも、もしかしたら後から修正や更正で税額が出現する可能性もゼロではないため、計算をして付表を提出しておくことが望ましい。

 以上のことから毎月の月次を早期化して柔軟な人事制度を行える事業者であることを常態化していくことがこの税制に限らず大事だと考えさせられる。


さくら坂税理士法人(旧:河野太一税理士事務所)

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